努力は報われるときも報われないときもあったりなかったり
Thrushは語る。
それは締め切り前日のことであった。
ぶっちゃけてしまうと、それはそれは酷い状態だった。どんだけ酷いって、おいらの作品はまだ半分も出来ていないわ、あっちの作品はレビューや修正が終わっ ていないわ、連絡つかない奴がいたりするわ、ついでにスーパーで半額だった寿司を喰ったせいか、おいらの腹の調子までハーフプライスラベリングタイムだっ たりした。
「これはもうだめかもわからんね」
そんな台詞が自然と出てきたのは当たり前だったかも知れない。今まで数々のピンチを味わってきた我らが ’むげんれんさ’ であるが、いくら何でもコレは駄目だろ。無理だろ。そんな空気が漂っていた。
某バスケット漫画の「諦めたらそこで試合終了ですよ……?」なんて名台詞を思い浮かべたりもしたが、「何それ喰いモンですか? 美味いですか?」と自分で 自分に突っ込みを入れつつ、黙々と自分の作品のネタを考え、平行して他の人の作品のチェックをし、ついでに俺屍PSPの風神雷神で全滅食らったり……とか はせず、まじめにバカアホネタをキーボードから原稿へとたたき込む。腹痛ついでに頭痛もしてきたので最近流行のイブプロフェン入り風邪薬と正露丸とリポビ タンDを流し込み、迫りつつあるタイムリミットに怯え、鼻水をすすり、目薬をさし、満身創痍で魂と会話する。
「主催さんよぉ。ネタがねえんだよ。オチ付けられないんだよ。オチだ、オチよこせ」とか愚痴ってみたら「てめえがさっさと原稿よこさねえからオチなんてわ かるわけねえだろ」と罵倒され「なんだい役に立たねえ奴だ。手前のケツは手前で拭くよ。あてになんてしねえよ。こん畜生」と罵倒し返す修羅場の中、サーク ル参加者達のテンションは急上昇と急下降を繰り返し、あっちは句読点が足りねえとか、こっちは「あ」が一個足りねえとか喧々諤々の大騒ぎしながら、まがり なりにも新刊が仕上がっていく様は感動的なんて言葉はちっとも似合わず、むしろかつて信じられていた「奴隷が集まってクフ王のピラミッドを作り上げてい く」陰惨な想像図を彷彿とさせ、おいらなんて「これで面白い本が出来るのかよ!」とまじめに思った。
惨劇を積み重ね、血の涙流しながら自分の原稿をアップしたのが十二月十七日(土)の午後九時過ぎである。その後、順調とは言えないまでも何とか素材も集まり、連絡つかなかった奴との連絡もとれ、めどが立ったのは入稿四時間前のことであった……。
「そんな苦労をするくらいなら、もっと前からちゃんと準備しておけよ」という意見はごもっともであり、たいへん耳の痛い話であるのだが、これまで作った一 三冊がすべてこんな調子である。よくもまぁ落とさず作り続けてこれたモンだ。褒めるべきは主催であり、協力していただいた皆々様であり、けして自分ではな いのだが、なにやら誇らしい感じがする。
本題。
今回の新刊「お姉さまのサヴァラン」。毎度毎度新刊のタイトルにはお菓子の名前(オフセットには洋菓子、コピー誌には和菓子)をつけているのだけれども、 おいらは↑の締め切り前日までタイトルを知らんかった。タイトルを聞いても「サヴァラン? なにそれ?」てな感じでピンとこない。Wikipediaに 「サヴァラン (savarin) は、フランスの焼き菓子。ブリオッシュを切って紅茶味のシロップを染み込ませて冷やしたものにラム酒やキルシュをかけ、生クリームや果物で飾りつけたも の」と書いてあってもさっぱりわからない。さらには画像をみても喰った覚えが無い。なんじゃこのオサレな喰いモンは。いいのか? こんなわけわからん喰い モンの名前をタイトルにつけて。タイトルと中身がさっぱり一致してねえよ。
ま、毎度そうなんですけどね。大事なのは中身だから!(おうよ)
写真と説明文から想像するに、サヴァランという喰いモンは小麦粉とバターと卵と砂糖とラム酒とジャムと生クリームの味がしそうである(材料そのまんまだ が)。あー、なんか分かった気がする。きっとああいう味だ。CTCの茶葉を濃く出してミルクをたっぷり入れた紅茶に合いそうだ。アマイモノスキーのおいら はそんなふうに思う。なんかよだれが出てきましたよ? 幸せになれる喰いモンに違いない。
あー、そうか。実際には見た事が無い食べた事のない物でも、想像を膨らませればこれだけ楽しめる。きっと執筆者の皆にとってこの本はある意味サヴァランなのだ。おとボクという偉大な作品だけでは飽き足らない者達が作り上げた菓子なのだ。
……なんてな。そういうこじつけは大事。皆々様にもそう思っていただけるとありがたい。実際「お姉さまのサヴァラン」には美味しい物語を沢山詰め込む事が出来た。どれもこれも「良く出来ている」と一言で現すのはもったいない作品ばかりだと思う。
中でもオススメは、宇壬音古さんの「天使の接吻と聖夜の円舞曲(おとめのキスとラストダンス)。25ページほどの中に、優雨と千歳との邂逅の楽しさ、儚 さ、美しさがきっちり詰まっていて、それがあさの月さんの挿絵によりさらに際立っている。書き手からの感想ではあるが「ああ、良いな。こういうのを書きた いな」と思わせる作品だ。お姉さまのサヴァランを手にしたら真っ先に読んでいただきたい。
もちろん他の作品も躊躇無く「ま、読んでみてよ」と言えるモノばかりだ。ちょっとクスクスと笑えたりモノ、「ん? まてよ?」と読み直したくなったり、「なるほどなるほど」と会得がいったり、そんな「飽き足らない」者が作り上げた物語が詰まっている。
え? おいらの? さあなぁ。「つまらない話」だと思って書いたつもりは無いので、きっと楽しんでもらえると思います。そろそろ馬鹿話じゃなくて全うな話を書きたいなぁとか思っていますが、そっちは今度の夏にでも……出せたら良いなぁ。
大晦日(12/31)の西1ホールほ-28b「むげんれんさ」でお待ちしておりますm(_ _)m
……主催がね。
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